Makuake

3.6億円の超音波食洗器は食洗機になれたか

Alex Ishiguro 読了目安:8分
3.6億円の超音波食洗器は食洗機になれたか
目次
  1. 1プロダクト概要
  2. 2クリエイター・プロフィール
  3. 3市場背景
  4. 4気になるポイント
  5. 5応援したいポイント
  6. 6比較・代替案
  7. 7まとめ

シンクに水を張って、超音波でピカピカ——。キャッチコピーだけ聞けば、誰だって心が動く。狭い賃貸キッチンに据置型食洗機は置けない。でも毎晩の皿洗いからは解放されたい。その切実な願いに応えるかのように登場した「The Washer Pro」は、Makuakeで支援総額約3億6,000万円という驚異的な数字を叩き出した。

キャンペーン終了から約4年が経った今、見えてきたのは「超音波で食器が洗える」という技術的事実と、「だから食洗機の代わりになる」というマーケティングの間にある、思った以上に深い溝だ。

プロダクト概要

The Washer Proは、操作パネルを備えた本体ユニットと、水中に沈める超音波発生器の2パーツで構成されるポータブル超音波食洗器だ。シンクや洗い桶に水を張り、食器とともに超音波発生器を沈めて使う。周波数40kHz・出力350Wの超音波がマイクロバブルを生成し、キャビテーション(空洞現象)で汚れを物理的に剥離する——家庭用メガネ洗浄機の約10倍の出力を、食器サイズに投入した製品だ。

デジタル表示パネル付きの二槽式シンクで、左槽に野菜、右槽に食器が収納されています。
出典:cdn

洗浄コースは6分・12分・20分の3段階。ただし従来型の食洗機と決定的に異なるのは、すすぎと乾燥が自動化されていない点だ。洗浄後は手作業で食器を引き上げ、流水ですすぎ、自然乾燥させる必要がある。Makuakeでのキャンペーン価格は超特別早割の57,700円から69,700円まで複数のリターンが用意された〔確認済〕。定価は99,600円(税込)。原産国は中国で、PR TIMESのプレスリリース(2021年12月6日)に明記されている〔確認済〕。

クリエイター・プロフィール

販売元はBDP株式会社(旧Brand Design Plus株式会社)。2016年設立、資本金500万円、本社は東京都渋谷区。代表は結城哲氏〔確認済——gBizINFO〕。The Washer Pro以前はマスク関連製品(「会話しやすいマスク」「口紅が付かないマスク」等)をMakuakeやPR TIMESで展開していた〔確認済——PR TIMES掲載分〕。公式サイトではビックカメラ、東急プラザとの取引実績を掲げ、テレビ番組への露出も複数謳っているが、「協賛」の具体的内容は明らかでない〔未確認〕。

市場背景

2021年末当時、工事不要の小型食洗機市場はパナソニックのSOLOTA、シロカ、サンコーのラクアシリーズなど噴射式が主流だった。いずれも「洗浄→すすぎ→乾燥」を1台で完結させる設計だ。The Washer Proが提示した「超音波式」はアプローチ自体がユニークで、据え置きスペースが不要・キャンプにも持ち出せるという訴求は、ワンルーム暮らしの層やアウトドア愛好家に刺さった。

SincleanとThe Washer Proという2つの超音波洗浄器の仕様比較表
出典:cdn-ak

ただしこの製品の基本設計は中国で開発・製造されたOEM品であり、BDPが担ったのは日本市場向けのローカライズ——タッチパネルデザイン、電圧対応、PSE認証取得など——だったことがITmedia Business(2022年3月3日、窪田順生)の取材で明らかになっている〔確認済〕。それから4年、タンク式食洗機の市場は大きく成熟した。参入メーカーが増え、価格は下がり、本体サイズも小型化が進んだ。The Washer Proが売りにした「場所を取らない」という差別化ポイントは、当時ほどの優位性を持たなくなっている。

気になるポイント

「超音波で食器が洗える」の技術的限界。キャンペーンページはメガネの超音波洗浄機と同じ原理だと訴求するが、原理が同じでも条件はまるで違う。メガネ洗浄機は数百mlの水槽で35W程度を照射し、皮脂やホコリという微細な汚れを落とす。The Washer Proは数十リットルのシンクに350Wを投入するが、水量あたりの出力密度はむしろ低くなりうる。さらに超音波キャビテーションは油脂を「剥離」はしても「乳化」はしない——つまり水中に分散した油が食器を引き上げる際に再付着するという構造的弱点がある。この現象は後述するレビュアーの報告と一致する。食器の油汚れに対する超音波洗浄の有効性を示す独立した試験データは、現時点で確認できていない〔未確認〕。

キッチンシンクにBDPデバイスが置かれており、洗い物用の容器と食器が収納されている。
出典:my-shokusenki

「10年の集大成」の主語。キャンペーンページは「1.6億円の研究費がかけられ、6回のモデルチェンジをした10年間の集大成」と謳う。だがITmedia Business(2022年3月3日)の調査によれば、BDPがこの製品に関わったのは6世代中5代目からであり、それ以前は中国の超音波テクノロジー企業が開発を担っていた。Makuake担当者への取材でも製法は「OEM生産」と確認されている〔確認済——ITmedia Business同記事〕。つまり「1.6億円・10年」はBDP単独の数字ではなく、シリーズ全体の累計だ。南充浩オフィシャルブログは「過剰なストーリー作り」と指摘しており、読者が「BDPが10年かけて自社開発した製品」と受け取る余地のある表現には疑問が残る。

AliExpressとの価格差。mixiユーザー日記(id:6292339)によれば、AliExpressで同等品が約23,968円で販売されていた。Makuakeの最安リターン57,700円はその約2.4倍にあたる。PSE認証や日本語サポートのコスト上乗せを考慮しても、後述する耐久性問題を踏まえると差額に見合う体験が提供されたかは疑問だ。

「予洗い不要」の現実。キャンペーンページは「残菜や米粒もそのまま洗浄可能」と謳うが、複数のレビュアーがこれを否定している。GarretCafe(2022年5月21日)は2週間の使用後、「油物は、基本的に落ちないと思った方が良い」と結論づけ、「一度落ちた油を、洗いおわって水から引き上げるときに、再度油で塗装される」という超音波式特有の再付着問題を指摘した。ナイハハぶろぐ(2024年5月28日)も3ヶ月使用レビューで「ギトギトのフライパンをそのまま洗ってみたが…30分ほど超音波で洗ったがとれません。手洗いのほうが早い」と報告。さらにmy-shokusenki.com(2023年3月27日)のレビューでも軽い汚れには効果がある一方、油汚れへの限界とすすぎ工程の手間が指摘されている〔確認済〕。

1〜2年で壊れる耐久性。支援者の声でもっとも深刻なのが故障報告だ。価格.comのレビューには「1年1カ月経過で超音波発信機が故障。1年保証なので保証期限切れで有償修理」「2年弱使って壊れ、保証期間外なので49,800円で新品を提供しますと言われました。2年間で9万円、その後2年ごとに5万円なんてコスト的に問題外」という声が並ぶ〔確認済——価格.com〕。mixiユーザー日記でも購入7ヶ月後に超音波が発生しなくなり、修理後さらに1年2ヶ月で同じ故障が再発したと報告されている。「インスタなどでほかの方のクチコミを見ても、やはり1年少し超えたところで故障というコメントが多い」という指摘も見過ごせない。

騒音レベルのギャップ。キャンペーンページは「運転中でもテレビの音がはっきり聞こえます」と訴求するが、価格.comレビューでは「音がものすごくうるさいです。テレビを見ながら稼動すると、食洗器の付近にいたらテレビの音が聞こえません」と真逆の報告がある〔確認済〕。FAQでも素材や大きさによって運転音が大きくなる場合があると認めており、静音性の訴求には留保が必要だ。

コーティング剥離のリスク。ナイハハぶろぐ(2024年5月28日)は「一番ショックだったのは炊飯器のお釜のコーティングが剥げてしまったことです」と報告している〔確認済〕。超音波キャビテーションの物理的な力がコーティングを損傷しうるという点は、キャンペーンページでは十分に注意喚起されていない。

農薬除去率の根拠不明。キャンペーンページは農薬(アセフェート、オメトエート、ジメトエート)の94.7%以上除去を主張するが、検査機関名も報告書番号も開示されていない〔未確認〕。食品安全に関わる数値的主張でありながら第三者検証の裏付けがない。超音波洗浄機の農薬除去を謳う製品は中国市場には複数存在するが、日本の消費者保護基準ではこうした数値主張に検査機関の開示を義務づける規定はなく、メーカーの自主的な情報公開に委ねられているのが現状だ。

応援したいポイント

場所を取らない唯一の選択肢。超音波方式という切り口自体には正当な価値がある。据え置きスペースが不要で、シンクさえあれば使える。コップやカトラリーなど油汚れの少ない食器には実際に効果があり、楽天市場のレビューでも継続使用の報告が確認できる〔確認済〕。

食器洗浄機の使い方を3つのステップで示した画像。水を張る、食器を入れる、ボタンを押す手順が表示されている。
出典:fancl

批判への対応姿勢。BDPはITmedia Businessの取材を受けた後、Makuakeの活動レポートでOEM生産である旨を説明しており、批判に対して無視を決め込まなかった。mixiユーザー日記では保証期間内の故障に代品交換で対応した事例も確認されている〔確認済〕。

比較・代替案

超音波方式にこだわらず「工事不要で手軽に使える食洗機」という本来のニーズに立ち返ると、現行品にはより手堅い選択肢がある。

パナソニックのSOLOTAは一人暮らし向けの超コンパクト設計で、洗浄からすすぎ・乾燥まで全自動。The Washer Proのキャンペーン価格帯と同等かそれ以下で購入できる。

シロカのSS-MU251は4〜5人分に対応し、UV除菌機能も備える。家族世帯でタンク式を探しているなら有力な候補だ。

アイリスオーヤマのISHT-5000は大手メーカーの安心感とタンク式の手軽さを両立し、家族向けの容量を確保しつつ価格も抑えめだ。

まとめ

The Washer Proは、超音波キャビテーションという確立された技術を家庭の食器洗浄に持ち込んだ、着眼点のある製品だ。軽い汚れの食器には実際に機能する。だが気になるポイントで詳述したとおり、油汚れへの無力さ、手作業すすぎの負担、1〜2年で故障する耐久性の3点で、キャンペーンが描いた「食洗機の代わり」像との乖離は大きかった。「10年の集大成」という表現がBDP単独の実績ではなくOEM元を含むシリーズ累計だった点も、ストーリーの作り込みとして批判を受けている〔確認済——ITmedia Business〕。

いま中古で検討している人へ。超音波発生器の振動板は消耗部品であり、1年超の使用品は故障リスクが高い。保証期間外修理に49,800円を提示された事例が報告されている。中古購入を検討するなら超音波発生器の動作確認を必ず行い、コーティング鍋や油物には使えないと割り切る覚悟が必要だ。

これから工事不要の食洗機を買いたい人へ。「洗浄→すすぎ→乾燥」を全自動で完結させたいなら、パナソニックSOLOTA(一人暮らし)、シロカSS-MU251(家族向け)、アイリスオーヤマISHT-5000(コスパ重視)が現実的な選択肢だ。いずれも噴射式ゆえに油汚れにも対応する。

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A

Alex Ishiguro

編集長

MakuakeやCAMPFIREで話題になった商品の「その後」を追うメディアを運営。約束されたものが実際に届いたのか、消えてしまったのかを記録する。

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